大阪地方裁判所 平成5年(わ)3835号 判決
本籍
《略》
住居
《略》
会社役員
中川正一
《生年月日略》
右の者に対する商法違反被告事件について、当裁判所は、検察官○○○○、弁護人○○○○各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役6月に処する。
この裁判の確定した日から4年間右刑の執行を猶予する。
被告人から金450万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、いわゆる総会屋として活動していたものであるが、
第一 平成4年5月12日ころ、大阪市西区京町堀1丁目3番17号に本店を置き、各種ベアリング及び機械部品等の製造、販売等を事業目的とするエヌティエヌ株式会社(代表取締役社長須磨吉仲)の本店ビル2階応接室において、同社が同年6月26日開催する同社第93期定期株主総会に関し、株式の取得を差し控えて株主権の行使をしないこと及び同社の単位株を有する他の総会屋株主らをして、その株主権の行使に関し、右総会への出席、発言を差し控え、議事が円滑に進行するよう協力せしめることへの各謝礼の趣旨の下に同社の計算において供与されるものであることを知りながら、同社総務部長堀英生らから現金150万円の供与を受け、
第二 同年12月22日ころ、神戸市中央区○○○通×丁目×番×号○○○○ビル2階飲食店「○○○○○○○○」において、同社第93期定期株主総会に関し、株式の取得を差し控えて株主権の行使をしなかったこと及び同社の単位株を有する他の総会屋株主らをして、その株主権の行使に関し、右総会への出席、発言を差し控え、議事が円滑に進行するよう協力せしめたことへの各謝礼の趣旨の下に、同社の計算において供与されるものであることを知りながら、前記堀らから現金150万円の供与を受け
第三 平成5年6月4日ころ、同市東灘区○○×丁目×番×号○○○○ビル地下1階飲食店「○○○」において、同月29日開催の同社第94期定期株主総会に関し、株式の取得を差し控えて株主権の行使をしないこと及び同社の単位株を有する他の総会屋株主らをして、その株主権の行使に関し、右総会への出席、発言を差し控え、議事が円滑に進行するよう協力せしめることへの各謝礼の趣旨の下に、同社の計算において供与されるものであることを知りながら、前記堀らから現金150万円の供与を受け
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(検察官請求証拠番号42ないし44、以下同じ。)及び司法警察員(40、41)に対する各供述調書
一 ○○○○(17)、堀英生(25ないし27)及び行田和弘(33)の検察官に対する各供述調書
一 堀英生の司法警察員に対する供述調書(24)
一 司法警察員作成の捜査報告書(4、10、11)
一 大阪府警察本部刑事部捜査第四課長作成の捜査関係事項照会書謄本(8)及びこれに対する登記官○○○○作成の回答(9、登記簿謄本1通及び閉鎖役員欄用紙謄本8通より成るもの)
判示第一及び第二の各事実につき
一 鶴丸博保の検察官に対する供述調書(36ないし38)
一 司法警察員作成の捜査報告書(2、7)
判示第二の事実につき
一 ○○○○の司法警察員に対する供述調書(22)
判示第三の事実につき
一 ○○○○(12)、○○○○(13)、○○○○(15)、○○○○(16)及び行田和弘(32)の検察官に対する各供述調書
一 ○○○○(14)及び行田和弘(30、31)の司法警察員に対する各供述調書
一 司法警察員作成の捜査報告書(3、5、6)
(法令の適用)
罰条 いずれも商法497条2項
刑種の選択 いずれも懲役刑選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)
執行猶予 刑法25条1項
追徴 刑法19条の2、19条1項3号
(量刑の理由)
本件は判示のとおり、被告人が、エヌティエヌ株式会社の株式の取得を控えたり、他の総会屋の株主権の行使を差し控えさせ、株主総会の進行に協力する趣旨のもとに前後3回にわたり、同社の関係者から合計450万円の供与を受けたという事案であるところ、被告人は長年にわたりいわゆる総会屋として活動し、昭和56年の商法改正によって利益供与禁止規定が設けられたにもかかわらず、なお総会屋としての活動を続け、昭和59年の同社の株主総会に出席して総会屋としての威嚇力を見せ付けることによって、当時同社に関係していた総会屋から本件と同趣旨のもとに金員を受け取り続け、その後、自ら同社の幹事総会屋として活動して本件犯行に及んだもので、右商法改正の趣旨を没却し、正常な株主権の行使や株主総会の運営ひいては会社運営を阻害したものと言うべく、その責任は軽いものとはいえない。しかしながら、被告人は本件によって検挙され、総会屋としての活動をしない旨誓約しているうえ、心筋梗塞を主とする病気のため身体障害者第一種四級の認定を受ける状態にあり、再犯の可能性は低いこと、本件によって同社から受領した金員についてはすでに返還していること、被告人は30年以上前に一度処罰を受けたことはあるものの、その後は何らの処罰歴がないことなど、被告人に有利に考慮すべき事情もあるので、これらの事情を総合勘案し、被告人に対しては、その刑責を明確にしたうえ、今回に限りその刑の執行を猶予することとする。
よって、主文のとおり判決する(求刑懲役8月)。
(裁判官 並木正男)